土屋華章の《華》・いよ子がその若き生涯を閉じた昭和15年(1940年)は、日本の『紀元2 千6百年』と称され、わが国が日中戦争から太平洋戦争へとその戦力を拡大していくターニン グポイントとなった年である。 『紀元2千6百…
第10章・ことじの悲しみ
わが国は、1931年(昭和7年)の満州事変を皮切りに大陸での侵略拡大を本格化させ、その 翌年に関東軍の絶大な援護によって建国された満州国が、《日本の本土及び朝鮮半島(当時 の支配下)の防衛と大陸利権確保のために作られた傀…
第9章・土屋華章の珍客
《この家の主人は土屋華章という人品のいい老人だが、二十五歳のとき金剛砂を使ってモ ーターで水晶に加工することを発明した。今までに弟子を百人ばかり育てている。(中略)三人 の職人がシナの仏像写真を前に置き、大体その感じを出…
第8章・ことじの自慢
『あぁーいい湯だった♪』 『!?・・・・・・・・・』 手ぬぐい片手の一糸まとわぬ格好で、廊下を涼しげに歩くことじ。住み込みの若い弟子職たち の夕餉の手は止まり、茶碗と箸を手に持った持ったまま、目線は釘つ゛けとなって廊下を…
第7章・ことじの秘密
第一次世界大戦終結と共に押し寄せてきた不況にあえぐ日本経済とは相反して、1920年代 の米国は大戦への輸出で発展した重工業投資や帰還兵による消費の拡張、そして何よりモ ータリゼーションのスタートで自動車工業が飛躍的に発展…
第6章・ことじの商才―商売の秘訣―
ことじと夫・孝の商売には実はある秘訣があった。それは・・・・・ 《大事な交渉事は必ず女が行くべし》 非常に単純ではあるが、これが以外にも土屋華章の商いでは大変重要なポイントになってい たのだ。その極意とは・・・それでは、…
第5章・ことじの商才―外国人との商売―
1914年(大正3年)セルビア人によるオーストリア・ハンガリー帝国皇太子の暗殺(サライヴォ 事件)が引き金となり第一次世界大戦が勃発。その直後こそ戦争の世界規模への拡大に対 する混乱から一時は恐慌寸前にまで陥ったが、戦火…
第4章・ことじの結婚―土屋家の人々―
土屋家でのことじの奮闘振りをご紹介する前に、少しだけ彼女を取り巻く土屋家の人々につ いてお話をしてみたい・・・。 ことじの舅・松次郎(孝の父)は職人名を【松華】と言い、水晶印鑑の篆刻で腕を磨き、後に 東海道一円に篆刻の技…
第3章・ことじの結婚 ―夫・孝―
明治45年鵜飼橋の熱烈な恋文攻撃が二人の距離を急接近させ、孝とことじは結婚した。 同年7月明治天皇が崩御し、その子供・明宮嘉仁親王が次の天皇として即位。元号が新た に大正となった節目の年であった。大いにテレがあったのであ…
第2章・ことじの青春-キャリアウーマンことじ-
『おまんさぁー!ないしちょっと?』(あなた何しているの?) 『ないしちょっと?』と言われても勝手口裏の井戸で洗濯をしているだけである・・・・。 東京西ヶ原・蚕業講習所製糸部の伝習生として2年間の実際応用的な勉強を修了し、…